今村大使のインタビュー
6月23日、今村大使のインタビューがBlic紙に掲載されました~
電子版リンク(セルビア語): https://www.blic.rs/vesti/svet/ambasador-japana-akira-imamura-za-blic-prijatelj-u-nevolji-je-pravi-prijatelj/g7vns4p 当館作成インタビュー仮訳(項目番号は当館付記): 『「困っている時の友は真の友」今村朗日本大使はBlicに述べた:新規投資でセルビアのEU加盟を支援する』 1 前書き セルビアと日本は140年以上の友好関係があり、特に両国にとって困難なときに助け合ってきた。「私たちはお互いに友好関係を構築することを止めませんでした。」駐セルビア日本国大使の今村朗氏は先般、二国間の協力についてこのように述べた。今村大使はBlicに大使、日本からセルビアへの投資や贈与、二国関係及びセルビア情勢について語った。 2 本文 (1) (セルビアに着任当初、日本のセルビアへの投資を増やすことが目標だとおっしゃっていたが、これまでの成果はいかん。投資以外に、どの分野において、二国間関係は進展していくか。) 日本企業のセルビア進出が企業数及び投資額共にこの5年間毎年増加していることは喜ばしい。その結果、2021年には初めて国別で投資額が10位になった。特に近年ではToyo Tire、ニデック、JFE商事といった自動車関連の分野における大型投資が目立つ。日本企業はセルビア政府による手厚い支援、工学系の能力が高く英語が上手い人材が豊富であるということ、費用対効果の高さという3点を評価している。しかし、このことは残念ながら日本では余り広く知られていない。 その意味で、6月上旬にモミロビッチ通商大臣、ベゴビッチ科学・技術開発・イノベーション大臣、メサロビッチ経済大臣率いる経済代表団が訪日したことは時宜にかなったものだった。彼らは日本政府、日本の経済団体、日本企業等と会談し、セルビアの投資先としての魅力に加え、IT及びAIといった先端技術にも長けていることをアピールできたものと確信。 2018年に故安倍元総理はベオグラードで「西バルカン協力イニシアティブ」を発表している。これはセルビアを含む西バルカン諸国のEU加盟に向けた経済社会改革及び地域協力を支援することを2つの柱としている。日本からの投資はEUとの経済統合、民間セクターの更なる改革の推進とともに、改革を支える人材を育成することにつながる。当館は、セルビア政府と協力して、日本企業による更なる投資を通じてセルビアのEU加盟を支援していきたい。 (2) (セルビアにて日本セルビア商工会が活動しているが、これまでにセルビアに対してどれくらいの投資があったか。また、これらの投資はどのような価値があると考えるか。投資に関して、あらゆる日本企業にとって、セルビア市場に参戦するあたって何が重要であるか。) セルビア日本商工会(JBAS)にはセルビアに進出している日本企業及び日本企業と取引のあるセルビア企業から成る約50社が加盟している。そのうち日本企業は約30社である。 日本からの投資の価値について、多くの人は、技術の移転のみならず、企業倫理・企業文化、環境保護を含む企業の社会的責任の考え方をもたらすものであると指摘している。それは、セルビアの持続可能な発展に資するものである。ブチッチ大統領もこうした質の高い投資を大変重視していると承知しており、これまでも日本企業の開所式に出席していただいてきた。 外国に進出する日本企業にとって、重要なことは先ほど述べた人材、コスト、投資先政府による支援という3点に加え、日本人従業員とその家族が現地で安全に生活できるという点である。セルビアはこの観点からも、多くの日本人駐在員 が、安全で暮らしやすい国だと証言している。既にセルビアに進出している日本企業とまだ進出していない企業との間にはやはりセルビアの実態に関する理解にギャップがあるため、同様に正しい理解を伝えていく必要がある。 (3) (日本企業も参加する見込みのビストリツァ水力発電所が大きく注目されているが、そこでは何が期待できるか。) 日本とセルビアは2050年までに脱炭素化を達成するという目標を共有している。日本はセルビアを含む各国のグリーン・トランジションを支援していきたい。特に再生可能エネルギーの大幅な導入が重要であるが、ビストリッツァ揚水発電所建設プロジェクトは再生可能エネルギーによる安定的な電力供給をもたらすものであり、更なる再生可能エネルギーの大幅な導入を可能とするものとして、大きな意義がある。セルビア政府からこのプロジェクトのために円借款の要請を受け現在JICAがフィージビリティ調査を行っている。このプロジェクトにおいては日本企業に技術的強みのある可変速揚水発電機の導入が目指されており、日本の質の高い技術が活用されることを期待する。 (4) (日本はセルビアにとって大きな援助国である。最近では医療分野での寄付もされ、路上には20年前に日本から寄付された黄色いバスが停まっている。セルビアに対する援助と人道問題について、日本の計画はいかん。) 日本とセルビアは困難な時に助け合ってきた。我々は2011年に大地震と津波に直面した時のセルビアからの支援を忘れない。あるセルビア人は私に困っている時の友は真の友という諺を引用して、日本とセルビアは真の友だと述べたが、まさにそのとおりだと思う、2003年に日本が贈与した93台の黄色いバスが日セルビアの友好のシンボルになっていたことを嬉しく思う。それはベオグラード交通局の20年間にわたるメンテナンスにより大切に使われた。昨年、「ヤパナッツ」は退役したが、我々はそれを祝う式典を行ってもよいかもしれない。こうした協力を行うに当たり、我が国は、人間の安全保障という考え方を大切にしてきた。これは、個々の人々に着目し、その保護と能力強化を通じて持続可能な個人の自立と社会作りを促すというものである。この考え方に従って、GGP(草の根・人間の安全保障無償資金協力)と呼ばれる贈与プロジェクトを、社会福祉、教育、保健、環境といった様々な分野においてセルビア全土で続けてきた。その一環として、先日私も日本がセルビア南部のガジン・ハンに対して実施した医療及び学校関連の機材供与に係る引渡式に出席してきたところ。各自治体やNGOと引き続き協力していきたい。 5) (豊富な外交活動の中で、ロシア、英国、豪州、ジョージアなど世界の様々な地域で勤務された。戦争や国家関係の緊張化など、今日の世界の構造は楽観的ではない。これらの情勢について、どう考えるか。) 自分は1984年に外務省に入省し、東京での勤務に加え、これまで外交官として欧州、ロシア、豪州、北米等の世界の様々な地域で勤務し、それぞれの地域の視点から世界情勢を見てきた。その経験から申し上げると、世界は今、歴史の転換点にあると見ている。法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序は、力または威圧による一方的な現状変更の試みにより重大な挑戦にさらされている。また、途上国・新興国の存在感の高まりにより国際社会の多様化が進む一方で、国境や価値観を超えて対応すべき課題が山積みとなっている。 私はすでに“人間の安全保障”について述べた。国際社会が多くの課題に直面し、分断を深める今だからこそ、人類全体で語れる共通の言葉が必要であり、その言葉は「人間の尊厳」だと考える。「人間の尊厳」に光を当てることで、国際社会が体制や価値観の違いを乗り越えて「人間中心の国際協力」を着実に進めていけるのではないかと思う。そのため、自分は今後の世界情勢につき楽観はしていないが、決して悲観もしていない。我が国は西バルカンの安定と発展に大きな関心を有しており、地域安定の鍵を握るセルビアとの関係を重視している。貴国とは二国間のみならず、国際場裏においても引き続き協力していきたい。 (6) (駐セルビア日本国大使としてセルビアを訪れて1年が経つが、この国や人々についてどのような印象をもったか。ロシア語の知識はセルビア語を理解し、勉強するのに役立っているか。) 20年ぶりにセルビアを訪問したが、セルビアが安定した中進国に発展したことは喜ばしい。ベオグラードも近代的な都市に生まれ変わっている。また、セルビアの各地を訪れ、ラキヤと共に、人々の暖かいもてなしを受けた。ストゥデニツァ修道院を訪れたが、中世セルビアの興隆を実感した。セルビアはこのように多様な顔をもっている。 セルビア語の入門者である自分にとってはロシア語の知識は役立っている。同時に言えることは、言語の相違を越えて日本人とセルビア人は似ているところがあることだ。日本人とセルビア人の心の中には、近代性へのあこがれと自己アイデンティティの維持という2つの異なる傾向が見て取れるという点である。しかし両者は矛盾するものではない。日本の近代化は自己アイデンティティの維持によってもたらされたものであり、このことはセルビアにも言えることだと思う。 キ (セルビアやこの地域の人々は日本にますます詳しくなっているように思えるが、訪日を検討している人々に何を提案するか。)2024年3月の訪日外国人数は300万人を越え、コロナ禍前の記録を上回った。茶道や着物などの伝統文化から、アニメやマンガといったポップカルチャーにより、世界中で注目されている日本の多様な文化だけでなく、安全性やサービスの質の高さが日本旅行への関心を高めていると考える。また、セルビアのパスポートをもっていれば、90日以内の観光であれば、ビザなしで日本に入国することができる。もっと多くのセルビア人に日本の魅力を直接体験してほしい。来年2025年4月から10月まで、日本の大阪で万博が開催される。セルビアも自国のパビリオンを出すことになっている。チケットの販売もすでに開始しているので、みなさんの来年の後の予定に、是非、大阪・関西万博の予定を追加してほしい。