2023年(令和5年)下半期の活動まとめ~インタビュー編~
令和6年1月6日
8月4日、RTSにて今村大使のインタビューが放映されました。
インタビュー動画及びスクリプト(セルビア語)リンク:
https://www.rts.rs/lat/vesti/politika/5248535/novi-ambasador-japana-akira-imamura-za-rts-o-ekonomskim-i-kulturnim-vezama-srbije-i-japana.html
当館作成インタビュー仮訳(項目番号は当館付記):
1 (質問:ロシアから始まり、カナダ、オーストラリア、イギリス、ジョージアそしてセルビアと外交官のキャリアを歩んでおり、その当時、政治的に重要な国にいたことが多かった。我々の国における焦点は何か。)セルビアは2004年に短期間訪れた時から、非常に発展した。これは、国民の努力と強力なリーダーシップのおかげと考える。二国間関係を推進していく大使の職に就けたことを嬉しく思う。
2 (質問:二国間の貿易額は約5億ユーロであり、継続的に増加している。ここに改善の余地はあるのか、またどの分野か。)2018年に当時の安倍総理大臣が発表した西バルカンイニシアティブの実施に私は焦点を当てている。貿易額に関する数字は非常によく、将来的な見通しも好ましい。その理由の1つは日本の大きな商社が2社あることで、常に拡大の機会を模索していることである。もう一つの要素はモノとサービスの欧州市場への輸出である。より広い視点でみると、これは二国間交流だけでなく、セルビアの輸出にも貢献している。
3 (質問:ニデックの工場が開設された際、セルビアの政府高官は「日本のニデックのような会社を誘致すれば、誰もが来たがる」と発言したが、これは本当か。)私の記憶では、2000年代初頭にポーランドやチェコで日本の投資が大幅に増大した。このパターンがセルビアでも繰り返されると言う人もおり、私の役割はそれを実現することである。例えば、先週、経団連とのオンライン会議があり、インジャに大きな工場を開設したばかりの東洋タイヤの成功事例を紹介しながら、セルビアへの投資の機会を紹介した。
4 (質問:日本の企業は忍耐強い資本の理論と、継続的な進歩を基本原理とするカイゼン哲学を基礎としている。日本企業や日本の働き方から何を学ぶことができるか。)この2つの原則は、真剣にビジネスを行いたいすべてのセルビア企業に当てはまると考える。日本のビジネスモデルは信頼に基づく長期的なパートナーシップを確立し、質の高い製品とサービスを提供することに基づく。カイゼンとは日本語で改善を意味し、継続的な努力をして生産性を向上させることである。そして、承知のとおり、社会的又は経済的責任のある投資について話す際に、これらの原則はさらに重要となる。
イノベーションと先端技術への巨額投資を通じて、2050年までにカーボンニュートラルを達成することが日本の目標である。そして、それをセルビアを含む他の国々と共有したいと考えている。また、日本企業がセルビアのグリーン・トランジションとエネルギー源の多様化に貢献したいと考えていることも私は知っている。私の役割は、外交努力を通じてこのプロセスを促進することである。
5 (質問:セルビアと日本は異なる側にいた、もしくは今でもいるという事実に関係なく、両国は同じ側にいたこともしばしばあった。日本で津波が発生した際にセルビアは日本に支援を送り、一方日本はセルビアにとって2番目に大きな経済援助供与国である。日本政府は医療、社会的保障、教育、環境の面で支援をしているが、支援先はどのように選んでいるのか。)2万人近くが亡くなった2011年の大震災直後、セルビアの皆様から寄付があったことを私たちははっきり覚えている。友好的で寛大な行為にとても感謝している。私たちはまた、90年代のセルビアの苦難も覚えている。そのため、20年間使われている日本の黄色いバスを始め、セルビアを支援したいと考えてきた。日本の優先順位だけでなく、セルビア政府、地方自治体、または非政府組織の要望にも基づいて決定している。優先分野は社会サービス、民間部門開発及び環境である。「ニコラ・テスラ」火力発電所を例にとると、我々の経験に基づき、健康に有害で喘息の原因となる窒素酸化物を除去する環境に配慮したプロジェクトを実施している。1960年代に日本で不幸なこと(注:公害による喘息の発生)が発生したのである。そのため、近い将来にもこのプロジェクトを完了したいと考えている。
6 (質問:前任者の一人がセルビアと日本の類似点を発見し、商人、農民、科学者の混合という言葉でセルビアの特徴を説明した。両国の類似点と相違点は何だと考えるか。)日本は非西洋の国でありながら、経済発展と安定的な民主主義を達成した数少ない国である。私たちは伝統文化とアイデンティティを保持したまま、これを達成した。
セルビアも同様の経験をしている。現代化と伝統は両立できないと言う人がいる。しかし、日本の事例は両立しうるということを証明した。唯一の違いは日本はこれを達成するのに100年かかったが、セルビアは私たちよりも速く発展できるということだ。
7 (質問:セルビア人は日本の文化をよく知っている。村上春樹や安部公房の本を読む。60年代から70年代にかけては日本の映画が流行した。セルビア出身の芸術家や作家は日本で知られているか。)私の名前は有名な映画監督の黒澤明と同じである。それだけでなく、アニメやマンガなど日本のポップカルチャーもセルビアの若者の間でとても人気があり、日本語を学び始めた人もいる。セルビアと言えば、ジョコビッチやピクシーなどのスポーツ選手が日本でも非常に有名である。また、セルビア人作家の本がいくつか翻訳されている。例えば、(手元の書籍を示しながら)これはアンドリッチの小説『ドリナの橋』だが、彼の三部作は日本語に翻訳されている。セルビアからの民族文化を紹介する団体も頻繁に訪日しており、大学でセルビアの民族舞踊を披露する学生団体もある。
8 (質問:すでに言及があったとおり、日本は2018年に故安倍元総理大臣がセルビア訪問時に発表した西バルカン協力イニシアティブを継続している。それまでは30年以上、首相がセルビアを訪問したことはなかった。次のトップレベルの訪問はいつ行われるべきか。)次の10年単位でみた場合、我々は外交関係樹立150周年を迎えることになる。そこに向け、政治及び経済分野において、ハイレベルでの訪問が期待できると考える。
8月13日、ポリティカ紙に今村大使のインタビューが掲載されました。
電子版リンク(セルビア語):
https://www.politika.rs/sr/clanak/566086/Put-ka-svetu-bez-nuklearnog-oruzja-postaje-tezi
当館作成インタビュー仮訳(項目番号は当館付記):
「核兵器のない世界への道のりはより難しくなった」
(1)「日本の西バルカン地域との協力に関するイニシアティブは2つの柱からなる。一つはEU統合に向けての改革の支援と、もう一つは西バルカン地域における地域協力の促進である。EUは日本の戦略的パートナーであり、日本は西バルカン諸国が欧州の一員として安定的に発展することを希望している。」、と今村朗新日本大使は「ポリティカ」のインタビューの中で言う。彼は7月25日に大統領に信任状を捧呈した際に、2018年に当時の安倍晋三総理大臣がベオグラード訪問に際して発表したこのイニシアティブを東京は継続すると発言した。
「このイニシアティブは発表から5年が経過した現在、日本の対セルビア政策の基本方針としてその意義は一層増大している。私は大統領に自分の任期中にこのイニシアティブを更に実施していきたいと述べた。」と、ジョージアでの大使の任期を終えてベオグラードに赴任した今村大使は強調した。1984年から現在まで日本の外務省に所属し、これまでモスクワ、ワシントンDC、ロンドン、キャンベラ、オタワの大使館に外交官として勤務した。
(2)(質問:今日の二国間関係をどう評価しているか。二国間において、ハイレベルでの訪問が近く実現する兆しはあるか。)両国関係はきわめて良好であり、昨年は両国の友好関係が始まってから140周年となるのを祝して両国で様々なイベントが開催された。また、近年、日本企業によるセルビアへの投資が増大しており、両国関係は新たな段階に入りつつある。2018年の安倍元総理のベオグラード訪問以降、翌年の河野外務大臣の訪問等、日本からのハイレベルの訪問が続いた。残念ながらコロナの流行で途絶えたが、いずれの国からであろうと両国間の相互訪問を再開していくことが私の優先課題の一つである。
(3)(質問:我々二国間にとって特に大事なプロジェクトは脱硫装置を備えた「ニコラ・テスラ」火力発電所A及びBの建設であり、JICAから財政支援及び技術協力を受けている。日本企業はセルビアにおけるエネルギー分野への投資に関心をもっているのか。)日本企業は質の高い技術を活用し、セルビアのグリーン・トランジションの円滑な実施とエネルギー源の多様化に貢献したいと考えている。ニコラ・テスラ火力発電所においては排煙から健康に有害な物質を取り除くプロジェクトが進展している。日本でも同じ技術で喘息患者を大幅に減少させた。JICAはセルビアの再生可能エネルギーの導入のためにも技術協力を行っている。廃棄物でさえエネルギー源となり得る。ビンチャでは日仏の企業の投資により、廃棄物からベオグラードの世帯に電力を供給するプロジェクトが間もなく完成する。
(4)(質問:3,000人を雇用しているJTIが2006年にセンタに進出したことを始め、日本の投資家がセルビアに来ている。その間に日本からさらに多くの投資がされ、5月にはニデックの工場が開業した。しかしながら、セルビアにある日本企業の数は見込まれている数よりはるかに少ないように思われる。)JTIの後も、矢崎や東洋タイヤ、ニデックといった自動車関連企業がセルビアに進出し、多くの雇用を生み出している。しかし、彼らがもたらしているのは雇用だけではない。日本企業は信頼に基づく長期的なパートナーシップを大切にする。そのためには忍耐強さが求められる。彼らには社会的な責任という意識も強い。彼らはそのような企業文化ももたらしてくれる。2000年代にチェコとポーランドに進出した日本企業の数が大幅に増えた。セルビアでも同じパターンが繰り返されると予想する人もいる。私もそれが現実のもととなるように尽力したい。
(5)(質問:二国間において双方向の貿易増大の可能性はあるか。)両国間の貿易額は今後とも双方向で増えていくことを期待できる。セルビアでは日本の総合商社2社(三菱商社と伊藤忠商事)が活発に活動しているからである。彼らが貿易しているのは農産物から化学製品までとても幅広い。加えて、貿易についてはもう少し広い視点から見ることも可能だ。たとえばセルビアに投資した日本企業は製造した製品を欧州市場などへ輸出することによって、セルビアの輸出の増大に貢献している。また、日本企業は世界中で生産しており、それらの製品は日本以外の国からセルビアに輸入されている。こうした日本ブランド製品を含めると貿易額ははるかに大きくなる。
(6)(質問:2011年にビザが不要となった。9,000キロの距離は観光客の増加と文化交流の主な障害となるか。日本人は(ピクシー(当館注:ドラガン・ストイコビッチ・サッカーセルビア代表監督の愛称)以外では)セルビアのことをどれくらい知っているか。)9,000キロの距離は障害ではない。2019年にセルビアを訪れた日本人は、日本を訪れたセルビア人よりも2倍近く多かった。しかし、その数はまだ少ない。セルビアは自らの魅力をもっと発信するべきだろう。2025年の大阪・関西万博への参加、その2年後の認定博覧会開催はそのための貴重な機会となる。地域的なアプローチも有効だろう。日本人観光客は一回の旅行で複数国を訪問することを好む。また、セルビアの人々にはもっと日本を訪れてほしい。日本の魅力は食文化や先端技術からアニメ・漫画までとても多様だ。Web Japanを訪れれば、最新のトレンドを知ることができる。
(7)(質問:日本はコソボを国家承認している。しかしながら、日本は2015年にコソボのUNESCO加盟をめぐる投票を棄権し、ベオグラード政府はそれを歓迎している。セルビアにおいて領土紛争は領土の一体性に関わる問題であるであるが、日本においては今日、どのように捉えているか。)日本はEUが仲介するベオグラード・プリシュティナ間の対話を支持しており、コソボ北部の情勢を注意深くフォローしている。5月に発生した事案に関して、緊張の高まりを重大な懸念をもって注視しており、、緊張緩和のために双方が直ちに行動を起こすように呼びかけた。我々は双方が対話に再び専念するとともに、2月と3月の関係正常化への道筋に関する合意とその実施附属書の下の義務を迅速に、適切かつ誠実に履行することを双方に強く促した。
(8)(質問:セルビア国民にとって(そして我々以外にも)、日本は何十年にもわたって、技術進化とハイテク未来の象徴である。間違いなく、日本は世界中でAI開発をしている国の一つで、我々の多くは最近になって現実になってきている。経験を踏まえて、AIを警戒するべきと考えているか。どのようにして、人がAIに仕えるのではなく、AIが人(そして人類)に仕えることができるか。)日本は現実とバーチャルの二つの空間を融合させるSociety 5.0の実現に向けてイノベーションを進めている。その鍵となる技術の一つがAIである。それは大きな可能性を秘めているが、悪用のリスクもある。AIに対するガバナンスは民主的な価値に従ったものにする必要がある。偽情報への対応なども重要な課題だ。セルビアがバイオテクノロジーとAIの融合がもつ可能性を探究しようとしていることに注目したい。日本の製薬企業がセルビアの研究機関と協力してAIを利用した診断を行うための研究開発に参加している。その進展を期待している。
(9)(質問:日本はNATOと親しいパートナーシップ関係にあり、そして何より、日本は米国の大切な同盟国の一つでもある。ウクライナでの戦争は日本にどれほどの影響があるか。)ロシアによるウクライナ侵略は欧州のみの問題ではなく、国際社会全体の原則への挑戦である。東アジアにおいては日本は厳しい安全保障環境に直面しており、岸田文雄総理大臣は「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」との危機感を表明している。だからこそ、日本は強力な対露制裁とウクライナ支援により毅然と対応してきた。5月のG7広島サミットでは、ゼレンスキー大統領を招いてウクライナへの揺るぎない連帯を示した。セルビアによるウクライナ関連の国際諸決議への支持及びウクライナへの人道支援を評価している。法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化のためにセルビアとも連携を一層強化していきたい。
(10)(質問:日本は今日においても、ちょうど78年前に原爆投下を経験した唯一の国である。さらに、2011年の福島の原子力発電所における重大な事故も経験し、核兵器を保有している北朝鮮も近くに位置している。ウクライナでの戦争以降、頻繁に核の使用が脅威となっていることを踏まえ、現在、どの程度、核戦争が世界で起こると考えるか。)核軍縮をめぐる国際社会の分断は一層深まっており、核兵器のない世界への道のりは更に厳しいものとなっている。ロシアによる核兵器の威嚇は断じて受け入れられず、ましてその使用はあってはならない。北朝鮮は不法な核・弾道ミサイル計画を放棄しなければならない。本年、広島に参集したG7首脳たちは被爆者たちと会い、核兵器による筆舌に尽くしがたい惨事に触れるとともに、核兵器のない世界へのコミットメントを確認する「核軍縮に関する広島ビジョン」を発出した。78年前に原爆が投下された8月6日、広島で行われた平和記念式典にはセルビアの代表も出席した。日本は唯一の被爆国として、核軍縮・不拡散に向けた機運を高めるための努力を続けていく所存である。
11月19日、Večernji Novosti紙に今村大使のインタビューが掲載されました。
電子版リンク(セルビア語):
https://www.novosti.rs/c/drustvo/vesti/1303979/lice-srbije-promenio-beograd-vodi-intervju-akira-imamura-ambasador-japana
当館作成インタビュー仮訳(項目番号は当館付記):
「ベオグラードのウォーターフロントもセルビアの表情を変えた:インタビュー-今村朗 日本大使」
1 前書き
(1)セルビアは私が前回、2004年に出張のため訪れたときと比較すると非常に発展した。これは、国民の努力と強力なリーダーシップのおかげと考える。最も強く感じた変化は、高層ビルやショッピングセンターの数が増えたことである。特に、サバ川のウォーターフロントの再開発の規模が大きいことに驚いた。外国人観光客や外国企業の数も増えていることも嬉しく思っている。Novostiのインタビューで、6月に駐セルビア日本国大使に着任した今村朗大使はこのように述べた。
(2)「まさかの時の友」:「まさかの時の友こそ真の友」という諺がある。最近、私はあるセルビア人にお会いしたが、彼は私に「ぞうさん」(象さん)という日本では誰もが知っている子供の歌を日本語で歌ってくれたので驚いた。彼はセルビアが90年代の制裁に苦しんでいる時は12歳だったが、セルビアで人道支援を行っていた日本のNGOのメンバーからこの歌を教わったということだった。この話は私の心にとても響いた。-今村大使は率直に述べた。
2 本文
(1)過去20年間で変わっていないこともあるとして、特に嬉しく思っているのは、日本がベオグラードに2003年に寄贈した「黄色いバス」が市民の間で今も大切に使われていることであると指摘しつつ、大使としてこのような良好な二国間関係の発展に取り組めることを光栄に思っていると述べた。
(2)2011年に大地震と津波が東日本をおそった時の貴国からの支援も忘れることはできない。セルビアは欧州の中でも最初に支援の手を差しのべてくれた国の一つだった。先週、私はクニャジェバツの小学校を訪れたが、当時の同校の生徒たちが支援活動に参加したと聞き、日本への支援はセルビア全土からのものだったと知った。福島の原発事故の際には、東京から避難した外交団も多かった中、在京セルビア大使館は科学的根拠に基づき東京で業務を継続した。日本には「恩返し」という表現がある。2014年にセルビアで発生した洪水被害に対して日本が行った支援は、2011年にセルビアから受けた恩に対する「恩返し」になったのかもしれない。その後、両国関係は順調に発展し、特に2018年に故安倍元総理がセルビアを訪問した際に「西バルカン協力イニシアティブ」を打ち出したことを契機として、両国間のハイレベルの訪問や日本企業のセルビアへの投資が増えており、二国間関係は新たな段階に入りつつあると言える。
(3)(質問:二国間関係は、明治天皇とオブレノビッチ王が書簡を公館した1882年から続いている。今日の二国間関係をどのように評価しているか、また今後10年間をどのように捉えているか。)二国間関係は新たな段階に入りつつあると言える。昨年は明治天皇とオブレノビッチ・セルビア国王が親書を交わしたことにより両国民の友好関係が始まってから140周年を迎えた。この機会に様々な行事が行われ、二国間関係上大変有意義な年となった。150周年に向け、両国の友好関係が更に発展するよう尽力したい。
(4)(質問:いくつかの日系企業がセルビアでの操業に成功している。今後、さらに投資が増えると期待できるか。)近年、日本企業のセルビアへの進出例が増えている。セルビアの比較優位性は高まっていると考えられ、今後も日本企業による対セルビア投資が増え続けることが期待される。こうした日本企業は、セルビアのEU市場への近接性や優秀な人材が豊富であるという点を評価して投資を決定している。
(5)(質問:日本はセルビアのEU加盟プロセスを支持している。セルビアのEU加盟プロセスは加速していると考えるか、また、どのようは方法を考えているか。)セルビアのEU加盟プロセスを加速することは可能であると思う。先般、欧州委員会は西バルカン諸国のための「成長計画」(Growth Plan)を発表した。これはEUの拡大プロセスを大きく加速させることを目的としていると承知している。この施策は歓迎されるべきであり、日本としても加盟プロセスをいっそう支援していきたい考えである。例えば、質の高い日本企業による投資はセルビアとEUの地域統合を進めるとともに、企業倫理や企業の社会的責任の概念を定着させることを通じてセルビアのEU加盟プロセスに資するものとなっている。さらに法の支配の分野でもメディアの自由に関する日本の経験をセルビアのジャーナリストに共有したいと考えている。
(6)(質問:日本は西バルカン地域の政治にどれほど関心があるのか、またこの地域における最大の課題は何と考えるか。)日本にとってEUは重要な戦略的パートナーであり、我々は、強く結束した欧州を支持する。西バルカン地域の安定は、欧州、ひいては国際社会の安定にとり重要。その観点から、西バルカン諸国のEU加盟を通じた安定化は日本にとっても重要。先述したとおり、2018年、故安倍元総理がセルビアを訪問した際に発表した「西バルカン協力イニシアティブ」は、西バルカン諸国のEU加盟及び地域内協力を支援するものであり、これは日本が西バルカン地域の安定化と発展を重視していることの現れである。西バルカン地域には、未だコソボをめぐる問題や民族間の対立等、様々な問題が存在しており、平和が完全に定着したとは言えない。他方で、オープン・バルカン構想を始めとする地域統合への取組等、ポジティブな動きも存在するところ、日本も「西バルカン協力イニシアティブ」に基づいて協力を続けていきたい。
(7)(質問:コソボ問題はどのように解決できると考えるか。)我が国はコソボ北部における一連の緊張の高まりを懸念している。同地域の緊張緩和に向け、これ以上の暴力事案の発生を防ぐことが必要であり、コソボ北部の治安状況の改善が急務と考える。その上で、対話を通じたベオグラード・プリシュティナ間の関係正常化が唯一の解決策であり、我が国はEUが仲介する双方間の対話を支持。両者の関係正常化の後に、双方のEU加盟を実現することが、地域の安定に不可欠である。特にセルビア系自治体連合の創設が鍵となる。我が国は独自のチャンネルを通じプリシュティナに働きかけを行っており、ベオグラードにも建設的な対応を期待する。我が国は、コソボでセルビア人とアルバニア人が協力してセルビア語のチャンネルを運営するに当たり、専門家を派遣しこれを支援しているが、両民族の融和に資することを期待している。
(8)(質問:世界はここ数か月、大変動の危機を迎えている。国家間の分断や武力紛争の時代に、これらをコントロールするには何ができると考えるか。)世界は紛争、暴力、テロ、そして地政学的緊張の中にある。我々は国際秩序の根幹が揺らぐ歴史の転換点ともいうべき時代を迎えている。国際社会が複合的危機に直面し、分断を深める今、我々は対立と分断ではなく、「人間の尊厳」という最も根本的な価値を中心に据え、困難に直面する人々に耳を傾け、エンパワーし、協調して困難に立ち向かうべきと考える。力または威圧による一方的な現状変更は認められない。日本は、国連安保理メンバーとして、そして今年のG7議長国として、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化のため、国際的なパートナーとの連携強化しつつ、引き続き精力的に取り組んでいく。
(9)(質問:セルビア国民は日本文化をよく知っている。村上春樹や安部公房の本を読み、日本の映画を観ている。ジョコビッチやピクシーの名が日本でも知られていることも知っている。観光、美術及びスポーツといった分野におけるさらなる協力の可能性はあるか。)着任以来、セルビアの日本のファンの方々にたくさんお会いしてきた。ベオグラードのブックフェアでも、数多くの日本の本がセルビア語に翻訳されて売られていた。日本の著名な作家の一人である太宰治の作品のうち、私もまだ読んだことのない作品も売られていたのには驚いたと同時に、セルビアにおける日本文化の広まりの様子を嬉しく思った。
セルビアはスポーツが強い国として日本で知られている。ジョコビッチ選手の世界での活躍やピクシーの日本のチームでの活躍などのためである。2025年にはセルビアも参加する大阪・関西万博が日本で開催される。そこには2800万人の人が訪れることが予想されており、これはセルビアの魅力を発信する絶好の機会となろう。その2年後のベオグラードで開催される認定万博にもつながるだろう。また、セルビアの人々ももっと日本を訪れてほしい。日本の魅力は食文化や先端技術までとても多様である。
(10)(質問:これまでの我が国に対する日本の援助の枠組みはセルビア国民によく知られているか。今後も支援を続けるか。)日本のセルビアに対する支援は2018年に故安倍元総理がベオグラードで発表した「西バルカン協力イニシアティブ」に基づいて実施されている。これはセルビアのEU加盟に向けた改革への支援と域内協力の促進の2本の柱からなる。分野としては民間セクター開発、気候変動対策、環境保全、保健、教育、社会福祉等の分野を重視している。保健医療の分野では、ノビベオグラード、ノビ・サド、ニーシュの主要病院に対する医療機材供与、セルビア各地の医療施設に対するマンモグラフィー供与等を行ってきている。また、人々の基本的なニーズに応えるべく、自治体やNGOを通じて草の根レベルでの協力も行っている。これは、GGPと呼ばれるスキームであり、これまでに、セルビア全土で250件以上の支援を行っている。来春から、西バルカン諸国の観光振興を図るために専門家を派遣する予定である。これは観光を通じて域内の人々の移動をいっそう活発にしようとするものであり、ブチッチ大統領が推進するオープン・バルカン構想の趣旨にも合致するものでもある。
インタビュー動画及びスクリプト(セルビア語)リンク:
https://www.rts.rs/lat/vesti/politika/5248535/novi-ambasador-japana-akira-imamura-za-rts-o-ekonomskim-i-kulturnim-vezama-srbije-i-japana.html
当館作成インタビュー仮訳(項目番号は当館付記):
1 (質問:ロシアから始まり、カナダ、オーストラリア、イギリス、ジョージアそしてセルビアと外交官のキャリアを歩んでおり、その当時、政治的に重要な国にいたことが多かった。我々の国における焦点は何か。)セルビアは2004年に短期間訪れた時から、非常に発展した。これは、国民の努力と強力なリーダーシップのおかげと考える。二国間関係を推進していく大使の職に就けたことを嬉しく思う。
2 (質問:二国間の貿易額は約5億ユーロであり、継続的に増加している。ここに改善の余地はあるのか、またどの分野か。)2018年に当時の安倍総理大臣が発表した西バルカンイニシアティブの実施に私は焦点を当てている。貿易額に関する数字は非常によく、将来的な見通しも好ましい。その理由の1つは日本の大きな商社が2社あることで、常に拡大の機会を模索していることである。もう一つの要素はモノとサービスの欧州市場への輸出である。より広い視点でみると、これは二国間交流だけでなく、セルビアの輸出にも貢献している。
3 (質問:ニデックの工場が開設された際、セルビアの政府高官は「日本のニデックのような会社を誘致すれば、誰もが来たがる」と発言したが、これは本当か。)私の記憶では、2000年代初頭にポーランドやチェコで日本の投資が大幅に増大した。このパターンがセルビアでも繰り返されると言う人もおり、私の役割はそれを実現することである。例えば、先週、経団連とのオンライン会議があり、インジャに大きな工場を開設したばかりの東洋タイヤの成功事例を紹介しながら、セルビアへの投資の機会を紹介した。
4 (質問:日本の企業は忍耐強い資本の理論と、継続的な進歩を基本原理とするカイゼン哲学を基礎としている。日本企業や日本の働き方から何を学ぶことができるか。)この2つの原則は、真剣にビジネスを行いたいすべてのセルビア企業に当てはまると考える。日本のビジネスモデルは信頼に基づく長期的なパートナーシップを確立し、質の高い製品とサービスを提供することに基づく。カイゼンとは日本語で改善を意味し、継続的な努力をして生産性を向上させることである。そして、承知のとおり、社会的又は経済的責任のある投資について話す際に、これらの原則はさらに重要となる。
イノベーションと先端技術への巨額投資を通じて、2050年までにカーボンニュートラルを達成することが日本の目標である。そして、それをセルビアを含む他の国々と共有したいと考えている。また、日本企業がセルビアのグリーン・トランジションとエネルギー源の多様化に貢献したいと考えていることも私は知っている。私の役割は、外交努力を通じてこのプロセスを促進することである。
5 (質問:セルビアと日本は異なる側にいた、もしくは今でもいるという事実に関係なく、両国は同じ側にいたこともしばしばあった。日本で津波が発生した際にセルビアは日本に支援を送り、一方日本はセルビアにとって2番目に大きな経済援助供与国である。日本政府は医療、社会的保障、教育、環境の面で支援をしているが、支援先はどのように選んでいるのか。)2万人近くが亡くなった2011年の大震災直後、セルビアの皆様から寄付があったことを私たちははっきり覚えている。友好的で寛大な行為にとても感謝している。私たちはまた、90年代のセルビアの苦難も覚えている。そのため、20年間使われている日本の黄色いバスを始め、セルビアを支援したいと考えてきた。日本の優先順位だけでなく、セルビア政府、地方自治体、または非政府組織の要望にも基づいて決定している。優先分野は社会サービス、民間部門開発及び環境である。「ニコラ・テスラ」火力発電所を例にとると、我々の経験に基づき、健康に有害で喘息の原因となる窒素酸化物を除去する環境に配慮したプロジェクトを実施している。1960年代に日本で不幸なこと(注:公害による喘息の発生)が発生したのである。そのため、近い将来にもこのプロジェクトを完了したいと考えている。
6 (質問:前任者の一人がセルビアと日本の類似点を発見し、商人、農民、科学者の混合という言葉でセルビアの特徴を説明した。両国の類似点と相違点は何だと考えるか。)日本は非西洋の国でありながら、経済発展と安定的な民主主義を達成した数少ない国である。私たちは伝統文化とアイデンティティを保持したまま、これを達成した。
セルビアも同様の経験をしている。現代化と伝統は両立できないと言う人がいる。しかし、日本の事例は両立しうるということを証明した。唯一の違いは日本はこれを達成するのに100年かかったが、セルビアは私たちよりも速く発展できるということだ。
7 (質問:セルビア人は日本の文化をよく知っている。村上春樹や安部公房の本を読む。60年代から70年代にかけては日本の映画が流行した。セルビア出身の芸術家や作家は日本で知られているか。)私の名前は有名な映画監督の黒澤明と同じである。それだけでなく、アニメやマンガなど日本のポップカルチャーもセルビアの若者の間でとても人気があり、日本語を学び始めた人もいる。セルビアと言えば、ジョコビッチやピクシーなどのスポーツ選手が日本でも非常に有名である。また、セルビア人作家の本がいくつか翻訳されている。例えば、(手元の書籍を示しながら)これはアンドリッチの小説『ドリナの橋』だが、彼の三部作は日本語に翻訳されている。セルビアからの民族文化を紹介する団体も頻繁に訪日しており、大学でセルビアの民族舞踊を披露する学生団体もある。
8 (質問:すでに言及があったとおり、日本は2018年に故安倍元総理大臣がセルビア訪問時に発表した西バルカン協力イニシアティブを継続している。それまでは30年以上、首相がセルビアを訪問したことはなかった。次のトップレベルの訪問はいつ行われるべきか。)次の10年単位でみた場合、我々は外交関係樹立150周年を迎えることになる。そこに向け、政治及び経済分野において、ハイレベルでの訪問が期待できると考える。
8月13日、ポリティカ紙に今村大使のインタビューが掲載されました。
電子版リンク(セルビア語):
https://www.politika.rs/sr/clanak/566086/Put-ka-svetu-bez-nuklearnog-oruzja-postaje-tezi
当館作成インタビュー仮訳(項目番号は当館付記):
「核兵器のない世界への道のりはより難しくなった」
(1)「日本の西バルカン地域との協力に関するイニシアティブは2つの柱からなる。一つはEU統合に向けての改革の支援と、もう一つは西バルカン地域における地域協力の促進である。EUは日本の戦略的パートナーであり、日本は西バルカン諸国が欧州の一員として安定的に発展することを希望している。」、と今村朗新日本大使は「ポリティカ」のインタビューの中で言う。彼は7月25日に大統領に信任状を捧呈した際に、2018年に当時の安倍晋三総理大臣がベオグラード訪問に際して発表したこのイニシアティブを東京は継続すると発言した。
「このイニシアティブは発表から5年が経過した現在、日本の対セルビア政策の基本方針としてその意義は一層増大している。私は大統領に自分の任期中にこのイニシアティブを更に実施していきたいと述べた。」と、ジョージアでの大使の任期を終えてベオグラードに赴任した今村大使は強調した。1984年から現在まで日本の外務省に所属し、これまでモスクワ、ワシントンDC、ロンドン、キャンベラ、オタワの大使館に外交官として勤務した。
(2)(質問:今日の二国間関係をどう評価しているか。二国間において、ハイレベルでの訪問が近く実現する兆しはあるか。)両国関係はきわめて良好であり、昨年は両国の友好関係が始まってから140周年となるのを祝して両国で様々なイベントが開催された。また、近年、日本企業によるセルビアへの投資が増大しており、両国関係は新たな段階に入りつつある。2018年の安倍元総理のベオグラード訪問以降、翌年の河野外務大臣の訪問等、日本からのハイレベルの訪問が続いた。残念ながらコロナの流行で途絶えたが、いずれの国からであろうと両国間の相互訪問を再開していくことが私の優先課題の一つである。
(3)(質問:我々二国間にとって特に大事なプロジェクトは脱硫装置を備えた「ニコラ・テスラ」火力発電所A及びBの建設であり、JICAから財政支援及び技術協力を受けている。日本企業はセルビアにおけるエネルギー分野への投資に関心をもっているのか。)日本企業は質の高い技術を活用し、セルビアのグリーン・トランジションの円滑な実施とエネルギー源の多様化に貢献したいと考えている。ニコラ・テスラ火力発電所においては排煙から健康に有害な物質を取り除くプロジェクトが進展している。日本でも同じ技術で喘息患者を大幅に減少させた。JICAはセルビアの再生可能エネルギーの導入のためにも技術協力を行っている。廃棄物でさえエネルギー源となり得る。ビンチャでは日仏の企業の投資により、廃棄物からベオグラードの世帯に電力を供給するプロジェクトが間もなく完成する。
(4)(質問:3,000人を雇用しているJTIが2006年にセンタに進出したことを始め、日本の投資家がセルビアに来ている。その間に日本からさらに多くの投資がされ、5月にはニデックの工場が開業した。しかしながら、セルビアにある日本企業の数は見込まれている数よりはるかに少ないように思われる。)JTIの後も、矢崎や東洋タイヤ、ニデックといった自動車関連企業がセルビアに進出し、多くの雇用を生み出している。しかし、彼らがもたらしているのは雇用だけではない。日本企業は信頼に基づく長期的なパートナーシップを大切にする。そのためには忍耐強さが求められる。彼らには社会的な責任という意識も強い。彼らはそのような企業文化ももたらしてくれる。2000年代にチェコとポーランドに進出した日本企業の数が大幅に増えた。セルビアでも同じパターンが繰り返されると予想する人もいる。私もそれが現実のもととなるように尽力したい。
(5)(質問:二国間において双方向の貿易増大の可能性はあるか。)両国間の貿易額は今後とも双方向で増えていくことを期待できる。セルビアでは日本の総合商社2社(三菱商社と伊藤忠商事)が活発に活動しているからである。彼らが貿易しているのは農産物から化学製品までとても幅広い。加えて、貿易についてはもう少し広い視点から見ることも可能だ。たとえばセルビアに投資した日本企業は製造した製品を欧州市場などへ輸出することによって、セルビアの輸出の増大に貢献している。また、日本企業は世界中で生産しており、それらの製品は日本以外の国からセルビアに輸入されている。こうした日本ブランド製品を含めると貿易額ははるかに大きくなる。
(6)(質問:2011年にビザが不要となった。9,000キロの距離は観光客の増加と文化交流の主な障害となるか。日本人は(ピクシー(当館注:ドラガン・ストイコビッチ・サッカーセルビア代表監督の愛称)以外では)セルビアのことをどれくらい知っているか。)9,000キロの距離は障害ではない。2019年にセルビアを訪れた日本人は、日本を訪れたセルビア人よりも2倍近く多かった。しかし、その数はまだ少ない。セルビアは自らの魅力をもっと発信するべきだろう。2025年の大阪・関西万博への参加、その2年後の認定博覧会開催はそのための貴重な機会となる。地域的なアプローチも有効だろう。日本人観光客は一回の旅行で複数国を訪問することを好む。また、セルビアの人々にはもっと日本を訪れてほしい。日本の魅力は食文化や先端技術からアニメ・漫画までとても多様だ。Web Japanを訪れれば、最新のトレンドを知ることができる。
(7)(質問:日本はコソボを国家承認している。しかしながら、日本は2015年にコソボのUNESCO加盟をめぐる投票を棄権し、ベオグラード政府はそれを歓迎している。セルビアにおいて領土紛争は領土の一体性に関わる問題であるであるが、日本においては今日、どのように捉えているか。)日本はEUが仲介するベオグラード・プリシュティナ間の対話を支持しており、コソボ北部の情勢を注意深くフォローしている。5月に発生した事案に関して、緊張の高まりを重大な懸念をもって注視しており、、緊張緩和のために双方が直ちに行動を起こすように呼びかけた。我々は双方が対話に再び専念するとともに、2月と3月の関係正常化への道筋に関する合意とその実施附属書の下の義務を迅速に、適切かつ誠実に履行することを双方に強く促した。
(8)(質問:セルビア国民にとって(そして我々以外にも)、日本は何十年にもわたって、技術進化とハイテク未来の象徴である。間違いなく、日本は世界中でAI開発をしている国の一つで、我々の多くは最近になって現実になってきている。経験を踏まえて、AIを警戒するべきと考えているか。どのようにして、人がAIに仕えるのではなく、AIが人(そして人類)に仕えることができるか。)日本は現実とバーチャルの二つの空間を融合させるSociety 5.0の実現に向けてイノベーションを進めている。その鍵となる技術の一つがAIである。それは大きな可能性を秘めているが、悪用のリスクもある。AIに対するガバナンスは民主的な価値に従ったものにする必要がある。偽情報への対応なども重要な課題だ。セルビアがバイオテクノロジーとAIの融合がもつ可能性を探究しようとしていることに注目したい。日本の製薬企業がセルビアの研究機関と協力してAIを利用した診断を行うための研究開発に参加している。その進展を期待している。
(9)(質問:日本はNATOと親しいパートナーシップ関係にあり、そして何より、日本は米国の大切な同盟国の一つでもある。ウクライナでの戦争は日本にどれほどの影響があるか。)ロシアによるウクライナ侵略は欧州のみの問題ではなく、国際社会全体の原則への挑戦である。東アジアにおいては日本は厳しい安全保障環境に直面しており、岸田文雄総理大臣は「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」との危機感を表明している。だからこそ、日本は強力な対露制裁とウクライナ支援により毅然と対応してきた。5月のG7広島サミットでは、ゼレンスキー大統領を招いてウクライナへの揺るぎない連帯を示した。セルビアによるウクライナ関連の国際諸決議への支持及びウクライナへの人道支援を評価している。法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化のためにセルビアとも連携を一層強化していきたい。
(10)(質問:日本は今日においても、ちょうど78年前に原爆投下を経験した唯一の国である。さらに、2011年の福島の原子力発電所における重大な事故も経験し、核兵器を保有している北朝鮮も近くに位置している。ウクライナでの戦争以降、頻繁に核の使用が脅威となっていることを踏まえ、現在、どの程度、核戦争が世界で起こると考えるか。)核軍縮をめぐる国際社会の分断は一層深まっており、核兵器のない世界への道のりは更に厳しいものとなっている。ロシアによる核兵器の威嚇は断じて受け入れられず、ましてその使用はあってはならない。北朝鮮は不法な核・弾道ミサイル計画を放棄しなければならない。本年、広島に参集したG7首脳たちは被爆者たちと会い、核兵器による筆舌に尽くしがたい惨事に触れるとともに、核兵器のない世界へのコミットメントを確認する「核軍縮に関する広島ビジョン」を発出した。78年前に原爆が投下された8月6日、広島で行われた平和記念式典にはセルビアの代表も出席した。日本は唯一の被爆国として、核軍縮・不拡散に向けた機運を高めるための努力を続けていく所存である。
11月19日、Večernji Novosti紙に今村大使のインタビューが掲載されました。
電子版リンク(セルビア語):
https://www.novosti.rs/c/drustvo/vesti/1303979/lice-srbije-promenio-beograd-vodi-intervju-akira-imamura-ambasador-japana
当館作成インタビュー仮訳(項目番号は当館付記):
「ベオグラードのウォーターフロントもセルビアの表情を変えた:インタビュー-今村朗 日本大使」
1 前書き
(1)セルビアは私が前回、2004年に出張のため訪れたときと比較すると非常に発展した。これは、国民の努力と強力なリーダーシップのおかげと考える。最も強く感じた変化は、高層ビルやショッピングセンターの数が増えたことである。特に、サバ川のウォーターフロントの再開発の規模が大きいことに驚いた。外国人観光客や外国企業の数も増えていることも嬉しく思っている。Novostiのインタビューで、6月に駐セルビア日本国大使に着任した今村朗大使はこのように述べた。
(2)「まさかの時の友」:「まさかの時の友こそ真の友」という諺がある。最近、私はあるセルビア人にお会いしたが、彼は私に「ぞうさん」(象さん)という日本では誰もが知っている子供の歌を日本語で歌ってくれたので驚いた。彼はセルビアが90年代の制裁に苦しんでいる時は12歳だったが、セルビアで人道支援を行っていた日本のNGOのメンバーからこの歌を教わったということだった。この話は私の心にとても響いた。-今村大使は率直に述べた。
2 本文
(1)過去20年間で変わっていないこともあるとして、特に嬉しく思っているのは、日本がベオグラードに2003年に寄贈した「黄色いバス」が市民の間で今も大切に使われていることであると指摘しつつ、大使としてこのような良好な二国間関係の発展に取り組めることを光栄に思っていると述べた。
(2)2011年に大地震と津波が東日本をおそった時の貴国からの支援も忘れることはできない。セルビアは欧州の中でも最初に支援の手を差しのべてくれた国の一つだった。先週、私はクニャジェバツの小学校を訪れたが、当時の同校の生徒たちが支援活動に参加したと聞き、日本への支援はセルビア全土からのものだったと知った。福島の原発事故の際には、東京から避難した外交団も多かった中、在京セルビア大使館は科学的根拠に基づき東京で業務を継続した。日本には「恩返し」という表現がある。2014年にセルビアで発生した洪水被害に対して日本が行った支援は、2011年にセルビアから受けた恩に対する「恩返し」になったのかもしれない。その後、両国関係は順調に発展し、特に2018年に故安倍元総理がセルビアを訪問した際に「西バルカン協力イニシアティブ」を打ち出したことを契機として、両国間のハイレベルの訪問や日本企業のセルビアへの投資が増えており、二国間関係は新たな段階に入りつつあると言える。
(3)(質問:二国間関係は、明治天皇とオブレノビッチ王が書簡を公館した1882年から続いている。今日の二国間関係をどのように評価しているか、また今後10年間をどのように捉えているか。)二国間関係は新たな段階に入りつつあると言える。昨年は明治天皇とオブレノビッチ・セルビア国王が親書を交わしたことにより両国民の友好関係が始まってから140周年を迎えた。この機会に様々な行事が行われ、二国間関係上大変有意義な年となった。150周年に向け、両国の友好関係が更に発展するよう尽力したい。
(4)(質問:いくつかの日系企業がセルビアでの操業に成功している。今後、さらに投資が増えると期待できるか。)近年、日本企業のセルビアへの進出例が増えている。セルビアの比較優位性は高まっていると考えられ、今後も日本企業による対セルビア投資が増え続けることが期待される。こうした日本企業は、セルビアのEU市場への近接性や優秀な人材が豊富であるという点を評価して投資を決定している。
(5)(質問:日本はセルビアのEU加盟プロセスを支持している。セルビアのEU加盟プロセスは加速していると考えるか、また、どのようは方法を考えているか。)セルビアのEU加盟プロセスを加速することは可能であると思う。先般、欧州委員会は西バルカン諸国のための「成長計画」(Growth Plan)を発表した。これはEUの拡大プロセスを大きく加速させることを目的としていると承知している。この施策は歓迎されるべきであり、日本としても加盟プロセスをいっそう支援していきたい考えである。例えば、質の高い日本企業による投資はセルビアとEUの地域統合を進めるとともに、企業倫理や企業の社会的責任の概念を定着させることを通じてセルビアのEU加盟プロセスに資するものとなっている。さらに法の支配の分野でもメディアの自由に関する日本の経験をセルビアのジャーナリストに共有したいと考えている。
(6)(質問:日本は西バルカン地域の政治にどれほど関心があるのか、またこの地域における最大の課題は何と考えるか。)日本にとってEUは重要な戦略的パートナーであり、我々は、強く結束した欧州を支持する。西バルカン地域の安定は、欧州、ひいては国際社会の安定にとり重要。その観点から、西バルカン諸国のEU加盟を通じた安定化は日本にとっても重要。先述したとおり、2018年、故安倍元総理がセルビアを訪問した際に発表した「西バルカン協力イニシアティブ」は、西バルカン諸国のEU加盟及び地域内協力を支援するものであり、これは日本が西バルカン地域の安定化と発展を重視していることの現れである。西バルカン地域には、未だコソボをめぐる問題や民族間の対立等、様々な問題が存在しており、平和が完全に定着したとは言えない。他方で、オープン・バルカン構想を始めとする地域統合への取組等、ポジティブな動きも存在するところ、日本も「西バルカン協力イニシアティブ」に基づいて協力を続けていきたい。
(7)(質問:コソボ問題はどのように解決できると考えるか。)我が国はコソボ北部における一連の緊張の高まりを懸念している。同地域の緊張緩和に向け、これ以上の暴力事案の発生を防ぐことが必要であり、コソボ北部の治安状況の改善が急務と考える。その上で、対話を通じたベオグラード・プリシュティナ間の関係正常化が唯一の解決策であり、我が国はEUが仲介する双方間の対話を支持。両者の関係正常化の後に、双方のEU加盟を実現することが、地域の安定に不可欠である。特にセルビア系自治体連合の創設が鍵となる。我が国は独自のチャンネルを通じプリシュティナに働きかけを行っており、ベオグラードにも建設的な対応を期待する。我が国は、コソボでセルビア人とアルバニア人が協力してセルビア語のチャンネルを運営するに当たり、専門家を派遣しこれを支援しているが、両民族の融和に資することを期待している。
(8)(質問:世界はここ数か月、大変動の危機を迎えている。国家間の分断や武力紛争の時代に、これらをコントロールするには何ができると考えるか。)世界は紛争、暴力、テロ、そして地政学的緊張の中にある。我々は国際秩序の根幹が揺らぐ歴史の転換点ともいうべき時代を迎えている。国際社会が複合的危機に直面し、分断を深める今、我々は対立と分断ではなく、「人間の尊厳」という最も根本的な価値を中心に据え、困難に直面する人々に耳を傾け、エンパワーし、協調して困難に立ち向かうべきと考える。力または威圧による一方的な現状変更は認められない。日本は、国連安保理メンバーとして、そして今年のG7議長国として、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化のため、国際的なパートナーとの連携強化しつつ、引き続き精力的に取り組んでいく。
(9)(質問:セルビア国民は日本文化をよく知っている。村上春樹や安部公房の本を読み、日本の映画を観ている。ジョコビッチやピクシーの名が日本でも知られていることも知っている。観光、美術及びスポーツといった分野におけるさらなる協力の可能性はあるか。)着任以来、セルビアの日本のファンの方々にたくさんお会いしてきた。ベオグラードのブックフェアでも、数多くの日本の本がセルビア語に翻訳されて売られていた。日本の著名な作家の一人である太宰治の作品のうち、私もまだ読んだことのない作品も売られていたのには驚いたと同時に、セルビアにおける日本文化の広まりの様子を嬉しく思った。
セルビアはスポーツが強い国として日本で知られている。ジョコビッチ選手の世界での活躍やピクシーの日本のチームでの活躍などのためである。2025年にはセルビアも参加する大阪・関西万博が日本で開催される。そこには2800万人の人が訪れることが予想されており、これはセルビアの魅力を発信する絶好の機会となろう。その2年後のベオグラードで開催される認定万博にもつながるだろう。また、セルビアの人々ももっと日本を訪れてほしい。日本の魅力は食文化や先端技術までとても多様である。
(10)(質問:これまでの我が国に対する日本の援助の枠組みはセルビア国民によく知られているか。今後も支援を続けるか。)日本のセルビアに対する支援は2018年に故安倍元総理がベオグラードで発表した「西バルカン協力イニシアティブ」に基づいて実施されている。これはセルビアのEU加盟に向けた改革への支援と域内協力の促進の2本の柱からなる。分野としては民間セクター開発、気候変動対策、環境保全、保健、教育、社会福祉等の分野を重視している。保健医療の分野では、ノビベオグラード、ノビ・サド、ニーシュの主要病院に対する医療機材供与、セルビア各地の医療施設に対するマンモグラフィー供与等を行ってきている。また、人々の基本的なニーズに応えるべく、自治体やNGOを通じて草の根レベルでの協力も行っている。これは、GGPと呼ばれるスキームであり、これまでに、セルビア全土で250件以上の支援を行っている。来春から、西バルカン諸国の観光振興を図るために専門家を派遣する予定である。これは観光を通じて域内の人々の移動をいっそう活発にしようとするものであり、ブチッチ大統領が推進するオープン・バルカン構想の趣旨にも合致するものでもある。